三鷹江口
久住昌之著「近くへ行きたい。秘境としての近所-舞台は〝江ぐち〟というラーメン屋。」という本が手元にある。文庫化された際「小説 中華そば江ぐち」へ改題されたが、この本は小説ではなく軽いエッセイみたいなもの。内容は近所のお気に入りのラーメン屋について、あれこれ妄想を膨らませていく話。店内の衛生管理責任者のプレートから店主?の名前を知ったり、電話帳に製麺業と書かれていたから自家製麺だったと知ったり。店員の所作、ほんの少しのやり取りから性格や関係性を妄想して各々のあだ名を付けたり。今のように店側から情報を発信する時代からすると考えられない妄想爆発の様子が面白く、自分のお気に入りの一冊になっている。この本が自分がラーメンに興味をもつ遠因になったし、ラーメン店の店主や店員とは必要最低限のやり取りに留め、なるべく距離を取って観察するようになった。またこの本を読んで以降、久住昌之氏の著書は買い続けている。久住氏が後にドラマ「孤独のグルメ」原作者として有名人になるとは当時思いもしなかったけど。
この本の舞台となる『中華そば 江ぐち』は勿論実在していた。1949(昭和24)年屋台から創業し路面店になり最終的には三鷹駅南口から徒歩3分ほどの場所の地下1階に店舗が移った。路面店からビルの地下1階に移転した時の衝撃の様子は先に紹介した本に克明に記載されている。残念ながら店主が急遽し2010(平成22)年1月に閉店してしまった。自分は約20年も前になるが食べ歩きを始めた直後に聖地巡礼のように一度だけ訪れることが出来た。
そして『中華そば江ぐち』が閉店した同じ年の5月1日に『江ぐち』があった店舗をそのまま引き継ぎ開店したのが『中華そば みたか』という店。店主は『江ぐち』末期の4年ほど店主夫婦の指導を受けていた若者なので途中とはいえある程度の引き継ぎは出来ていたはず。自分は約15年前に一度訪問しているがそろそろ再訪問してみたくなった。店には開店20分前に到着。店前の階段下のところに既に先客が1人待っていたのでその後に続いて暖簾が出されるのを待った。店主は定刻を10分前倒しで暖簾を出して店内に案内してくれた。その頃には階段をぐるっと回り込むほどの行列が生じていたので初回で満席で外待ちが出来ていた。ということは現地の人々に認められ支持されているということだ。店員は店主含め男3人女2人。客席は厨房周りコの字型カウンター10席。席は指定され冷水入コップが提供され口頭で注文した。ステンレスとタイルで出来た昭和の雰囲気を色濃く残す厨房の真ん中に店主が立ち、麺上げから盛り付けまで全て1人で担っている。煮立った湯が入った大鍋に麺を数玉入れて、一緒にワンタンや煮玉子も入れて、平ざるで麺上げという魅せる調理風景。カウンターに座る10人の客全てが店主の挙動に注視している。まるで舞台で1人立っている主役役者のようだ。15年前は幼さも感じられたけどすっかり貫禄もついていた。女店員は都度コップに水を注いでくれた。
味は醤油ひとつで後は全てトッピング追加メニュー。基本のラーメンは700円になっていた。初訪問時と同じ「五目そば」を注文。
麺は自家製の、本の表現に習うと象牙色をした中太ストレート麺。食感もややかためでボソッとしていて色も相まってちょっとだけ日本蕎麦っぽい印象を受ける。スープはごく普通の豚と昆布、野菜から作った醤油スープ。化学調味料も。サラッとしていて飲みやすく、油感は控えめだが物足りなさは感じない。いかにも東京のラーメンって感じがする。具はみじん切りの葱、どっさりもやし、ピーマン、平メンマ数枚、ナルト2枚、正方形に切られたハム2枚、半分に切られたかたゆで玉子、薄いチャーシュー3枚くらい。ピーマン、ハム、かたゆで玉子ってのがどこか昭和を感じさせられて良い。そして何よりこの店内の雰囲気でライブ感の中で食べる一杯は満足度が高い。スープ完飲の完食マークを出した。大満足で現金で支払いを済ませ「ごちそうさまー」と言って退店した。店前の階段には地上近くまで列が延びていた。




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