渋谷区立松濤美術館にて『描く人、安彦良和』展が開催されているので行ってきた。子供の頃から彼の描いたアニメを観て育ち、ガンダム以降のイラストレーションを観て「カッコイイなー!」と感動し、彼の描いた漫画はもちろんマイナーな小説まで買って読んでいた。つまり大ファンだった。普通だったら「この作者はどんな人なのだろうか?」と興味を持つのだと思うが、安彦良和氏に限って何故か彼の個人的な来歴等に興味を持ったことが無かった。学生時代全共闘のリーダーをやっていて逮捕されていた事等今回の展示会で初めて知り驚いたくらいだ。これは自分でもわからないのだが、今思うとおそらくは彼の作品があまりに早いサイクルで多岐にわたり膨大に生み出されていたのでそこまで気が回らなかったのだと思う。作品を追うのも「機動戦士ガンダム」を漫画化したあたりから消極的になってしまった。それは嫌いになったとか飽きたわけではなく単にその創作スピードに追いつけなくなったからだ。
展示会を一通り観終えた感想を先に言ってしまうと「この人、超人だ」だ。
「絵」に関して言えば間違いなく天才。アニメ出身だけあって躍動感の表現が凄い。言うは安しで、真っ白な紙を渡されてこんな躍動的な連続絵コンテをどうやったらこんなに滑らかに描けるのか?そして映画やレコードのイラストレーションのカッコ良さ。構図や人のポーズ、表情、全体の色使いとそのバランスまで惚れ惚れとしてしまう。どうやったらこんなレベルの作品群を短期間に描くことが可能なのだろうか?イラストレーターだけを本職にしている人でも不可能ではないだろうかと思ってしまった。
しかもアニメーター、イラストレーターというだけではなくデザイナーとしても凄い。各々の性格を見事に反映させたキャラデザイン。それが男だろうが女だろうが老人だろうが子供だろうが、動物であろうが分け隔てなく全てというのが凄い。もしかしたら本人的に苦手というのがあるのかも知れないがこちらから見れば全部違和感なく完成されているように見える。キャラだけではなくメカデザインも格好良いし。ガンダムを今のデザインにしたのは大河原邦男氏ではなく安彦良和氏だというのは有名な話だ。
「描く人、安彦良和」というタイトルの展示でそれだけでも驚嘆の連続だったのだけれど、作品群全体を観て安彦良和氏を一番凄いと思ったのが、創作力、企画力、行動力だ。絵も描ける、デザインも出来るから「何でも屋」「便利屋」として外部から色々頼まれて対応していたというのも事実だろうが、それ以上に自分の作品を生み出したいという意欲が常軌を逸しているのだと感じた。最初のガンダムのテレビシリーズ後半はあまりに過酷な業務が重なり過労で入院し戦線離脱てしまったのだが、その入院中でも初オリジナル小説作品「シアトル喧嘩エレジー」を書いていたくらいだから。その後は自分のオリジナル作品をアニメ監督として多数世に出すことになるのだが、その際外部にプレゼンしたり交渉したりしなくてはいけなかったことも想像がつく。更に監督だけではなく絵コンテやキャラデザイン、メカデザイン、宣伝用ポスター作成とかも等もほぼ一人で行っていたかと想像すると気が遠くなりそうだ。
更に小説も書いて、漫画も描いて、各々表紙絵やイラストも描いて膨大な作品を生み出していった。そういった作業を絶え間なく、一時は同時並行進行させなが…というのはもう仕事人という域を超えている。しかも題材にしているのがSFやファンタジーものだけに収まらず、漫画家としては洋の東西に関わらず歴史ものをメインにした作品を描いている。時間や場所に関わらず全部格好良く描けちゃうんだよこの人は。話の内容も天皇誕生前後の古代から戦中戦後の近代日本、キリストやクルド人等一般的にはアンタッチャブルと思われる部分を好んで作品化している。その度胸もさることながら、それを作品化する前に膨大な歴史考証の本を読んだ上での自説を組み立てていると思うので、この人は多分休んでいない。常に創作している。だから人間離れしている。天才的画力と想像力を兼ね備えた怪物か超人だと思った。
自分的にはとても内容の濃い展示会に感じられ大満足だ。これで入場料1000円って安過ぎではと思ったくらい。展示物がほぼ写真撮影が禁止されていた分、売店でブ厚いオリジナル図録やパンフレット、貴重な雑誌等を迷わず購入した。漫画小説作品はほとんどが電子化されているだろうからこれから徐々に購入して彼の作品をまた堪能したいなと思っている。それと作品数が膨大過ぎて(?)この展示会自体が今は前編で、今月24日から展示物が入れ替わり後編となるそうなので再びここに訪れることになるだろう。大満足で美術館を後にした。
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