名店再現
1990年代から2000年代に起きたラーメンブームの最中、今や重鎮と呼ばれるようになった名店の数々が奇跡のように同時期に誕生した事があった。後に「96年組」等と言われるようになった『麺屋武蔵』、『中華そば青葉』、『くじら軒』等だ。その影で当時一躍名を馳せたが今は姿を消してしまった名店も数多くある。そのひとつに『柳麺ちゃぶ屋』がある。フランス料理人出身の森住康二氏が1996年6月に荒川区三河島でオープンさせたラーメン店。後に文京区護国寺に移転、『MIST』と呼ばれる高級ラーメンブランドを立ち上げ海外進出も果たしたが、2012年に破産し暖簾を下ろす事になった。
我が本格的にラーメン食べ歩きを始めたは2006年春だったのでかなり後発なのだが、当時のラーメンブームの熱というものはまだ体感出来た。幸運にも『柳麺ちゃぶ屋』にも訪れる事が出来ている。2007年1月26日、勿論護国寺移転後の時だが、当時は昼営業で創業当時の三河島時代の味を、夜営業でリニューアル後の護国寺での味を提供していた。よって1日で昼夜2回訪れた。両方共行列に並んだ。格調の高さを感じる店内で革製のエプロンを格好良く着用した森住氏が丁寧に提供してくれた姿が記憶に残っている。
その『ちゃぶ屋』創業当時の味を、生粋のラオタ店主である渡辺樹庵氏が森住氏の全面協力を得て再現したラーメンを高田馬場にある『渡なべ』で期間限定で現在提供していると聞いた。ラーメン黄金期と言っていい当時を知る者からすればたまらない企画。年内一杯で提供終了になってしまうらしいので思い切って訪問してみる事にした。ちょっとは気を晴らさないと。
店に到着したのは開店予定の10分前。店前には既に9人の行列が出来ていた。席数は8なので初回入店は無理なことが確定した。ほぼ定刻に開店。我が入店出来たのは並び始めてから約30分ほど経過した後だった。その頃には我の後ろには15人くらいの行列が生じていた。入口脇の券売機で食券を購入。あれ?厨房には男の店員1人だけ。こりゃ大変だなーと思っていたら、しばらくして渡辺樹庵6番目の弟子と目され底なしの胃袋の持ち主であるとされる清田氏が颯爽と厨房に入ってきた。
『ちゃぶ屋1996 醤油 大』1300円+『味付玉子』150円=1450円
今回のメニューは醤油と味噌が選択出来る。本当は両方食べてみたかったが、我が『ちゃぶ屋』へ訪問した際筆頭醤油を食べていたので醤油を選択した。何故か悔しかったので食券購入時急遽大盛り味玉付きで注文した。
森住氏からレシピ提供等の全面協力を受けたらしいが、渡辺樹庵氏曰く「完全再現ではなく記憶のちゃぶ屋の味を再現した」「今の客にも美味しいと思ってもらえるように仕上げた」とのこと。そういう采配が素晴らしいと思う。『渡なべ』の真骨頂だ。
麺はしなやかさを感じる平打中太ストレート。具は青葱ともやし、かためのチャーシュー2枚。スープは豚骨や鶏がベースの醤油清湯。そこにしっかりとした揚げ葱の風味と背脂の脂分が加わる。やっぱりどこか洋の味わいを感じる仕上がりになっている。これは美味しい。そう言えば最近こういったラーメンに出会っていないなとも思った。文句なく完食。席を立つ瞬間に清田氏から「ありがとうございましたー」を声をかけてもらえた。勿論「ごちそうさまでしたー!」と返した。意を決して今日訪問出来て良かった。
森住氏は現在千葉の田舎でひっそりとラーメン店を営んでいるという。ぜひ機会をつくって訪れてみたいなーと思った。
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