長野白水
我は地麺巡りの訪問するべき店を選定する際、いかに創業が古い店であるかを重視している。必ずしも古ければ古いほど良いという事ではないのだろうが、長年営業を続けて来れたという実績は、地元民の支持力を測る無言の証明となり我にとって有力な訪問店選定材料になる。それに文句なく該当する店が長野市内に存在したので訪問することにした。長野電鉄長野線の権堂という駅近くにある1961(昭和36)年創業という『白水』という店がそれだ。電車に乗って行こうと思ったら1時間に2,3本しか出ておらず断念し、Google Mapsの教えに従い路線バスに乗って向かう事にした。
店に到着したのは午後4時半くらいかな。噂通り強烈に激渋な店構え。無事暖簾が出されているのを見て一安心した。事前調査した限りでは84歳になる女将がたった一人で切り盛りしている店らしい。店は日祝休みとなる。今日は平日とは言え連休の間なので営業しているか心配していたからね。早速ボロボロの木製の引き戸を開けて暖簾を割った。目の当たりにしたのは想像以上に年季の入った空間だった。目にするもの全てに積み重ねられた年月を感じて「昭和感」等という生易しい言葉で表現するには不十分に思えるほどだった。店内には女将と店の常連らしい先客の爺さんの2人。二人同時に驚いたように我を見たので思わず「今大丈夫ですか?」と言ったら女将は「どうぞー」と言ってくれたので入口に近い席に着席した。客席は厨房前に一列のカウンター8席。メニュー表も何も見当たらなかったが「中華そばお願いします」と女将に伝えた。しばらくするとまた常連らしい親父が1人やって来て「俺が作った肉料理とワイン持ってきた。このワイン俺の口に合わなくてさー」みたいな事を言っていた。よく見ると先客の爺さんも刺し身持ち込んでるし。それで女将と3人で世間話に花咲かせていた。女将が何かの拍子で転びそうになったら後客の親父が「お母さんに怪我されたら俺たち行く所なくなっちゃうよ」とか言ってた。何か「男はつらいよ」的な昔の邦画のワンシーンを見させられているような気分になった。我以外誰も中華そばを注文せず食べようとすら思っていないかの雰囲気。田舎町に1軒だけある、常連客しか来ないような飲み屋に入ってしまったような、久々感じる物凄いアウェー感。でも我自身異物となってそいうい地元に混ざる感覚がまた良いのだ。
話に花を咲かせていると言いつつ女将は我の注文した中華そばの調理の手を止める事は無かった。先客は持ち込んだ刺し身を食べているようなのでお湯を沸かすところから調理開始。中華鍋に木製の落とし蓋をして麺を茹でていた。スープは煮立たせないように何と昔のストーブで温めていた。かなり前に死に別れてしまった夫の作っていた通りの手法を引き継いでいるらしい。で、出てきたのがこの一杯。
麺は縮れ細麺。具はきざみ葱とメンマ数本、ナルト1枚、脂身のないさっぱりした小ぶりのチャーシューが3枚入っていた。スープはかなりあっさりした鶏ガラ醤油味。胡椒かけるのが前提なのかな。もうね、昔ながらの…とか、シンプル・イズ・ベストとか、言う事すら野暮ったく感じるくらいの一杯。この中華そば自体が長野の中華そばの歴史の生き証人みたいなものだ。間に合った…というのが食べた感想になる。早々に食べ終え、話に花を咲かせているところ悪いと思ったが「ごちそうさまー」と声をかけ支払いをして退店した。女将に「ありがとうねー」と送り出された。引き戸を開けると完全に暖簾が落ちていたので元に戻してあげた。今日この店の一杯を食べることが出来て本当に良かったと思った。






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