渡辺二十
西早稲田駅にほど近い路地にひっそりとある小さなラーメン店『渡なべ』が20周年を迎え、その記念の限定ラーメンを提供していると聞き、予定を返上してみなとみらい線に乗り込み西早稲田へと向かった。店主である渡辺樹庵氏に対する我の最初の印象は正直あまり良くなかった。それは当時ラーメン雑誌等を通じてラーメン店主ではなくラーメンプロデューサーとしてその名を知る事になったからだ。どうみても怪しい職業名。それでいてお洒落で格好つけているようでなんとなくいけ好かない。当時はそういった偏見で彼を見てしまっていた。それが後に我がご当地ラーメンを食べ歩くようになり、その関連情報を収集する中でその名を改めて聞く事になり、氏に対する印象が徐々に変わってきた。彼がラーメンが本当に好きで各地に食べ歩きに出かけている事を知り親近感を覚えた。それと同時に食べ歩きの中で印象に残ったラーメンを良い感じで再現してしまうので尊敬の念すら抱き始めた。ラーメンプロデューサーとしてではなく1人のラーメン店主としての圧倒的な力量を見せつけられたと感じたからだ。それでいて今もラーメンマニアの心も失っていないどころか、今も全開にしているのは凄い。好きなものでも仕事として接するとなかなかその気持ちを維持出来ないものなので。港南区にある氏のプロデュース店の『るい斗』&『niるい斗』はその流れで我も好きな店になっている。
その彼の本拠地である『渡なべ』は2002年4月21日開業した。基本は魚介豚骨ラーメンを提供している。我は2006年7月8日に始めて訪れ、2014年5月17日に再び訪れている。色々書いているがその二度共提供された一杯の美味しさには感服している。このところ魚介豚骨系ラーメン店を再訪問している我からすれば三度目の訪問は必須だったのだが、良いタイミングで20周年記念の限定ラーメンの情報を聞いて馳せ参じた訳だ。今日は朝から雲に覆われた空模様で予報では昼過ぎには雨が降りはじめるという。早めに家を出て開店の約40分も前に店に到着したのだが、店前には既に7人の行列が出来ていた。この店の客席は8席のみなのでギリギリ初回には入れる。危ないところだった。定刻を2分ほど過ぎて小さな暖簾が出された。その頃には我の後ろに10人くらいの行列が出来ていた。順番に入口脇の券売機で食券を購入し着席。店には男の店員が3人。渡辺樹庵氏も我の目の前で監督者の立ち場で狭い厨房に立っていた。
『渡なべ20周年記念らーめん』1300円+『燻製味付玉子』150円=1450円
限定ラーメンに燻製味玉をトッピングした。今回の限定ラーメンのコンセプトは「もっと美味しい渡なべ」だそうだ。羅臼昆布を大量に投入し基本メニューをグレードアップさせた一杯だそうだ。
麺はもっちりした食感のややかために茹でられた中細ストレート。具はわけぎと白髭葱、この店の特徴のひとつである幅の広い柔らかいメンマ2枚、小さめの柔らか豚バラチャーシュー3枚。トッピングの燻製味玉は黄身に味が染み込んで甘くて美味しいやつだった。そして今回の限定の目玉である渾身の魚介豚骨スープ。レンゲで一口飲んでみて「これは…凄いな」と感じ、以降スープをすするたびに同じフレーズを心の中で繰り返す事になった。まるで上質のブラックコーヒーのような、深い旨味を感じさせるものであり、至高の魚介豚骨と言っていいものだった。スープの乳化に拘り脂を分離させず旨味を閉じ込める事を心がけて作ったという。正に!これぞ!と言った『渡なべ』の一杯に仕上がっていると思う。味変調味料としてきざみニンニクと酢を提供されたので好奇心に負け後半投入してしまったが余計な事をして後悔してしまった。そのもののスープが美味すぎたのでそれを損なってしまったからだ。それでもこのスープ一滴でも残してなるものかと丼を90°以上傾けて飲み干し完飲完食した。こんなの大満足するしかないよ。幸せな気分で店を出る事が出来た。店前には10人以上の行列が生じていた。
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