初寝台旅
シルバーウィーク前夜21時45分。我は横浜駅6番線ホームで特別列車の到着を待っていた。ひと頃よりはマシになったとは言え、この時間になってもまだジメッとした暑さが肌にまとわりつく。何本もの東海道線下り列車が到着しては、残業したのか時差出勤したのかわからない人や、金曜日で飲んだ帰りの若者集団を飲み込んでは吐き出して、ゆっくりと走り去って行くのを見送っていた。10時22分になってようやく我が乗る特別列車が到着した。サンライズ出雲&瀬戸。我が初めて乗る寝台列車だ。
前々から島根県、特に出雲には行きたいなと考えていた。だから旅の情報を色々集めていく内に寝台特急サンライズ出雲の存在を知った。金曜夜に横浜駅から乗れて、寝っ転がっていれば朝10時前には出雲市駅に到着出来るなんて素敵やん!早速そのチケットを入手せねばと動いたのが今年の年明け早々だ。2月の飛び石連休を埋めて4連休にして出発する予定だった。みどりの窓口に行ったところ「売り切れです」とそっけなく言われた。翌2月は次の3月の連休を狙って今度は発売日当日にみどりの窓口に突撃したが同じ結果に終わった。その後の全世界的なパンデミック発生、緊急事態宣言発令でそれどころではない状況になったので、ゴールデンウィークも旅行の事は頭の中から消し去っていた。でも緊急事態宣言解除になりまたもや出雲への思いが復活し、7月の4連休狙いでその前の6月末の発売日にみどりの窓口に行く。ところが結果は同じだった…。更には新島行きの東海汽船も満席でフラれたので、7月の4連休は第3候補の佐渡へ渡ったのだ。「人のことは言えない」という事は重々承知しているが、6月末の頃から「みんな凄ぇ!」と思ったもんだよ。
ここに来てようやく我は気がついた。連休時期のサンライズ出雲のチケットはプラチナ化していて素人では入手困難だという事を。だからプロに任せる事にした。つまり旅行会社のツアーに参加する事にした。ツアーであればGOtoトラベルの対象になって大分安くあがる。佐渡旅行が決定した直後に申し込んだよ。先月末には手配完了の連絡が届いた。9ヶ月越しに念願が叶って人生初の寝台列車で行く旅が決定した。もっとも行きのみで帰りは飛行機になるんだけれども。問題は座席なのだが、競争率が高い個室寝台は諦めて「ノビノビ座席」という指定席券の料金のみで行ける安い席で申し込んでいた。とにかくチケットが押さえられなければ話にならないから。で、結果無事にチケットは入手出来た。
いよいよ初の寝台車へ乗り込む。12のc1…ああこれだ、ノビノビ座席。幅が55cm、人が横になれる広さの、床に絨毯を敷いただけのスペース。それが2段設置されている。我は1番隅の壁側の2階席だ。寝た時の頭側(窓側)は隣とは仕切られているが、足側には仕切りが低いので丸見えにはなる。でも明確に区切られているので領土が侵略される事はないようになっている。足元の廊下側にはカーテンで仕切る事が出来る。薄いブランケットや枕カバーのような布が各1枚用意してある。思ったよりも快適そうだ。
気になるのが床の硬さだ。カーペットの上にそのまま雑魚寝では、我のように終点の出雲市駅まで乗る場合、12時間居続ける事になる。それはキツイかなと心配した。そこで我は予め携帯出来るエアマットをAmazonで購入し持ち込んでいた。足で踏むと簡単に膨らむやつ。3500円したが、これがあるとないとでは大違い。枕の部分もついているしとても快適。災害の時も使えそうだし良い買い物をした。まるでカプセルホテルのようになった。何しろちゃんと寝れないと明日からの旅に支障をきたしてしまうからそれは避けたかった。
もうひとつ心配だったのが、共通部屋なので暑かった場合困っちゃうなという事。でも寝っ転がって天井を見たら空調が目の前にあってスライド式で自分で調節出来るので快適な温度で過ごせた。車窓にスライド式シャッターを降ろして枕元のスイッチでライトを落とせば十分暗くなったし、電車の振動や音もそれほど気にならないレベル。逆に良い催眠効果というか。これで快適に眠れそうだ。運の良い事に片側は壁なのでそちらに向けば自分の世界に入りやすかったのでぐっすりと寝てしまった。
気がつけば朝6時前。間もなく岡山駅に到着しでサンライズ瀬戸と切り離しを行うのでアナウンスが入った。窓のスライドを上げると日差しが入り込んだ。まるで家のベッドで寝そべった格好で流れていく景色を見るというのは新鮮で嬉しくなった。
到着まで3時間以上あるので買っておいたいなり寿司を食べお茶を飲んでから二度寝に入った。次に起きた時は車窓は一面緑の山の景色に変わっていた。電車は山陽から山陰へと入ったのだ。
到着まであと40分くらいになってようやくエアマットを折りたたむ。結構苦戦したけどね。しばらくすると廊下側の車窓から宍道湖が見えてきた。
定刻9時58分に出雲市駅に無事到着。横浜から乗換なしで出雲に到着してしまった。部屋から出たらそこはもう出雲だったかのような不思議な感覚。思いの外快適で良かった。また機会があれば乗ってみたいと思ったくらいだ。
約12時間弱の、我にとって初めての寝台列車の旅が終わった。これからレンタカーを借りて我の一泊二日島根の旅が始まる。
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