夏式根島
式根島。新島の南西約8kmの場所に位置する周囲12.2kmの小さな島。縦長の新島は周囲41.6kmあり、人口比も新島が約2200人に対し式根島は約530人程度。昔は新島と地続きだったという噂がまことしやかに流布されていたらしいが、過去の記録からデマだったという事が分かっている。しかし距離と関係性から今も行政管轄は新島村に属している。そんな式根島と新島は村営の連絡船が日に3便行き来しているというのを知ったので今旅を2泊にする事に決めたんだ。旅の2日目は式根島で過ごす事になる。
村営の連絡船「にしき」の第1便は朝8時に出港する。我はその1時間前に宿を出発し港に向かった。小さな掘っ立て小屋みたいな待合室に地元民と思しき先客1人と連絡船関係者のおじさん1人。往復運賃840円をおじさんに支払った。しばらくすると村人と思しき人達が数人やって来た。その時突然雨が降ってきた。え?こんなに青空が覗いているのに?驚いたけど明らかににわか雨。しばらく降り続いたけどね。出港10分前くらいになって突然若者集団が民宿の車に乗ってやってきた。結果満席に近い人数になって船は出港した。やはり皆考える事は一緒か。
10分程度の航海で式根島野伏港に着岸した。砂浜海岸が多い新島と異なり、式根島はゴツゴツとした岩場が多い印象だ。海の色は緑を帯びてこれはこれで綺麗だ。
町の中心部と港との距離があるのは新島も式根島も一緒。だから帰りも面倒にならないように港近辺でレンタサイクルを借りたかった。その昇りを掲げている店は多く見かけたのだが、まだ営業していないようなところが多い。あるところで倉庫にズラッと自転車が置いてある店があるが店番の人がいない。大声で呼んでも出ない。仕方なくケータイで電話番号を調べて電話をかけると向かいの家からおばちゃんが出てきた。「ここに来るまでいっぱい借りられる店あったでしょ!」と何故か怒られる感じになる不思議展開になったが何とか無事1日電動アシスト自転車を借りる事が出来た。昨日新島でボロの普通の自転車を借りて痛い目を見たからね。電動アシストをONにしていざ出発!
電動アシスト付きだと断然楽!なので意気揚々と「小さな島だから一周してやろう」と思って走り出したのだが、予想を上回る直射日光の威力にやられてしまった。出発前日mont-bellで購入したUVカット機能付きの通気性の高い長袖の上着を着用し、日焼け止めを顔や手足に塗って自分では万全の準備をして挑んだのだが、それでもこの日差しは強烈過ぎた。どんどん体力が奪われる。自販機を見つける度に水を買って飲んだが追っつかない感じ。島南部にある石白川海水浴場までやって来たけど、もう浜辺に出るだけでオーブンの上にいるかのようだ。
想像以上に危険なこの直射日光の下ではとても島一周は保たない。昨日のように横になれる宿などこの島にはない。行くべきポイントを絞る事に決めた。式根島は海岸に面した温泉が有名で各ガイド本に紹介されたりしていたが、この暑さの中温泉になどはいっていられるか!と行くことを諦めショートカットする。そして次に行くべきビューポイントは島北西部にある式根島随一の美景と言われる神引展望台に向かう事にした。島中央の山間部を縫うことになるが、それは電動アシストの力で辿り着いた。ところが駐車場から展望台まで100段ある階段を登らなければならない。しばらくは展望台を見上げて動けなくなってしまった。でも展望台だから階段登るのは当たり前だと自らにハッパをかけて階段を登った。そうしたら観光ガイドブックに載っている写真そのまま、いやそれ以上の景色が360°広がっていた!
富士山までは確認出来なかったけど利島、大島までは明らかに目視出来た。このような良すぎる天気の日にここにやって来れて自分は幸せだなーと思う事が出来た。それに何という美しい海の色だろうか…。沖縄の海の美しさを超えてきたよ!
式根島は入り組んだ湾になった絶好の海水浴場が複数あり、今神引展望台から眼下に見えた中の浦海水浴場や大浦海水浴場も良いけど道路から距離が離れているのでパス。向かうべきは島最北部にある式根島を代表する海水浴場、泊海水浴場だ。美しい扇型をした海岸があり、岬に囲まれているので海がいつも穏やか。しかも遠浅で海水が澄んでいて美しい。海水浴客もそこそこいるので入りやすい。容赦なく照りつける太陽、暑さによって蒸発していく気力と体力。これはここで海水浴するしかない!この時の為に水陸両用ズボンを着用してこの島に来たんだ!早速海岸に降りてビーチパラソルをレンタルして場所を確保。上着を脱いで海に入った。
我はこれほど美しい快適な海水浴は初めてかも知れない。何という綺麗な景色に囲まれた海水浴場なのだろうか。よく見れば小さな魚も泳いでいる。クラゲはもちろん海藻もいない。こんな場所が都心から高速船で2時間程度で来れるというのは信じられないよ。我は脱力して海面に浮きただボーッとしていた。その時我は幸せを感じていた。子供の頃から我は海が好きだった。不思議と子供の頃の記憶が蘇ってきた。心待ちにしていた海水浴へ連れてってもらえる日に雨が降って行けなくなったあの日。駄々をこねて父親に怒鳴り散らされ部屋の隅でうずくまって泣いていた事。その我が今はこんなに素晴らしい場所で夏を満喫している。
疲れたらパラソルに戻って一休みして、しばらくしたらまた海へ繰り出していく。それを数度繰り返した。途中かき氷を食べたり…。今回の旅で一番幸せな時間を味わえた。間違いなく記憶に残る時間を過ごす事が出来たよ。
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