壱岐訪島
壱岐島(いきのしま)。対馬から約68km、九州本土(佐賀県東松浦半島)から26kmの地点に位置する。南北17km東西15kmという対馬に比べればぐっと小さい、亀の甲羅の形に似ていると言われる島だ。また高速船から見てよくわかったのだが、起伏が少ない平坦な地形なのも対馬島と大きく異なる。まあそうは言っても島だから上り下りはあるのだけれど。
午後2時半、島の東に位置する芦辺港に高速船は着岸した。事前予約していたレンタカー会社の人が高速船乗り場に名前の書かれた札を掲げて出迎えてくれた。小さな島だからか大手レンタカー会社の営業所が存在せずローカルなレンタカー会社へ電話で予約していた。インターネット予約は不可だった。この港で料金を支払い説明を受ける。「返却時はガソリンは満タンにしてこの港付近に乗り捨てて下さい。キーはダッシュボードに入れておいて下さい。」と言われた。そんなずさんなのでいいの?とにかく車に乗り込み試運転。対馬で借りた車よりグレードダウンしていてちょっと慣れるのに時間が必要そうだ。ナビにもろくに観光地が登録されていないので、地図上にタッチして目的地を登録する他ない。
まず練習を兼ねて芦辺港近くの観光スポットである左京鼻に行ってみた。ただ岩が海面から突き出ているだけだが、対馬とは異なる壱岐の風景を見ることが出来た。壱岐は人に優しい感じの島だね。
すぐ近くの「はらほげ地蔵」にも立ち寄ってみた。海に向かって佇む六体の地蔵。誰が何の目的で作ったのか不明だそうだ。満潮時には頭まで海中に没するそうだが、我が訪れた時は完全に干潮で足元にも海水がない状態。回り込んで正面を見ることも出来たけど何故かやらなかった。
島の南東部の石田町へ移動。壱岐はハングル表記などほとんどなく普通の日本の田舎の風景。田んぼが広がっている場所もあったりする。対馬から来るとその違いに目がいってしまう。そして次の目的地、筒城浜海水浴場へ到着。壱岐は白い砂浜のビーチが各所にあるそうだが、その中でも一番有名なのがここ。遠浅で波も静かでサンダル履きのまま膝近い深さまで入ってみたけど全然平気だった。しかし対馬より秋雨前線に近い為か空が曇っていてちょっとくすんだ風景になってしまっているのが残念だった。
筒城浜海水浴場から南西方向に移動。やってきたのが岳ノ辻展望台。壱岐最高峰からの360°の風景が味わえるのだそうだ。といっても約212m。障害物のないので壱岐全景が見渡せた。景色も良かったけど、また晴れてきた事が嬉しかった。
更に南下を続け壱岐最南端の岬、海豚鼻を目指した。ここが今思い出しても結構な難所だった。マイナーな絶景ポイントの為ろくに案内板などがなく、ここの入口を見つけるのが一苦労だった。でもそれは序の口だった。白い灯台がある絶景ポイントに出るまでが過酷だった。草で覆われた入口。本当にここなのか?と疑って入ってみると道らしい道がない。誰かが通った跡、ほぼ獣道がかろうじてある草むら地帯が続き、さらに今度は藪に覆われていて道なき道を進む感じになっている。半ズボンにサンダル履きで来てよい場所ではなかった。これが5分くらい続いた。獣道の5分は長いよ。本当にこんなところ進んでよいのか不安になる。なにしろ他に誰もいないからね。途中2回くらい本気で引き返そうかと思った。次に藪地帯が現れたら間違えだったと引き返そう…そう思った時に海が見えた。そして白い灯台も。写真だけでは伝わらない旅の苦難はあるものだよ。遥か水平線の向こうに見える島は佐賀県馬渡島だろうか…。帰りは確実に出口があるとわかって進んだので行きより早く進めたと思う。手や足に草による切り傷がたくさん出来てしまった。
次に目指すのは壱岐の島で最も有名でシンボル的存在の「猿岩」だ。島最南端から中央の県道に出て北西方面に進路をとる。現れたのは夕陽を見上げて佇む巨猿のシルエット。各地の観光地で「~に見える」と動物や人に例えられる岩があるが、そのほとんどが「…苦しくないか?」と返したくなるものがほとんどだが、これは正しく猿岩だ。一度猿に見えてしまうともうそれ以外には見えない。
時刻はまだ5時半。日が沈むまでにまだ時間はある。猿岩より更に南の西向きの海岸、牧崎園地へ向かった。一面の牧草地の先に海が見える。その手前にある岩がゴリラの顔のようだ。更に先に歩を進めるとくり抜かれた崖の穴に西日が差し込んでいる。鬼の足跡というそうだ。
でもそれより何より我を感動させたのは、緑の牧草地の先の広大な水平線に近づいていく巨大な夕陽だ。その夕陽にまとわりつくように雲がかかっているのがまた素晴らしい。なんというか…しばらく見惚れてしまって動けなくなってしまった。周りに誰もいない。我一人、緑の草原に立って海の向こうの夕陽と対峙している。本当に感動すると言葉など思い浮かばず何も考えられなくなるものなんだ。この夕陽を見れて幸せだ。この夕陽を見せてくれた壱岐の島に来ることが出来て本当に良かった。
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