恐山入山
草も生えていない白い地面に、明らかに人が積み上て作った石の小山がある。その頂上にカラフルなかざぐるまがひとつささっていて、風に吹かれてカラカラと音を立て回っている。カメラが引くとその石の小山とおもちゃのかざぐるまが無数にあり、カラカラという音が複雑に混じり合っている。更にカメラは別の場所を移すと、まるで生物がいるとは思えない、妙に青白い澄んだ湖が広がっている。子供の頃に見たオカルト番組のオープニングシーンだ。人が考える死後の世界のイメージにこんなに近い風景の場所が現実にあるのか?と思った。そしてそこには「恐山」という恐ろしげなテロップが表示される。こんな出来すぎた名前の土地、本当にあるのか?それを見た当時は「行ってみたい!」とは決して思わなかった。寧ろ避けていたと言っていい。でも我もこの歳になって、この国のいろいろな土地に赴いていろいろな景色を見ていく内に「是非この目で確かめてみたい!」と思うようになった。下北半島を旅してみたいと思った大きな理由は恐山の存在だった。
尻屋崎から直線が続く道路で快適に車を運転していたが、むつ市街をかすめて恐山へ近づくに連れ、結構くねくねした山道になっていく。霊場恐山菩提寺はいくつもの山から成る恐山山地の中央にあるのだ。ナビをみてそろそろ到着かな?と思った途端に車内に硫黄の臭いが漂ってきた。突然視界が開け、そこには宇曽利山湖が広がっていた。菩提寺駐車場に到着。入山料500円を払っていよいよ恐山体験だ。
大きな山門の近くには着飾った地蔵とかざぐるまがいくつもささってカラカラとと音を立てている。今更ながらあの恐山に来てしまったんだと思った。
山門をくぐると普通の寺院ではありえない景色が広がっていた。白く開けた大地と硫黄の臭い、ところどころにある仏像、お地蔵さん。そして子供の頃にみたカラカラと音を立てて回るいくつもの石で積まれた山とかざぐるま達。白装束に身を包み祈る人達。人々の死者を供養したいという強い気持ちはこのような光景を現実化してしまうものなのか…。恐山、それは勢いを無くした雲仙地獄のような地熱地帯と、仏教世界が奇跡の融合を果たした世界だった。
そして極楽浜・宇曽利山湖が見えてきた。何でこのような湖が存在するのか?湖底から湧く硫化水素によって強い酸性をもち、ほとんど生物もいない。だからとても透明度が高い。折からの天候で対面の山々には靄がかかっていて、この世ならざる雰囲気に拍車をかけている。そして足元にはカラカラと音を立てて回るかざぐるま。三途の川の川岸に立っているような錯覚をしてしまってもおかしくはない。このような場所が本当にあったんだという事がまだ信じられない。現実感が曖昧になる。そんな不思議な場所だった。
コメント