大阪地麺
今年最後の地麺巡り遠征、大阪地麺の旅へ出発する。東京と並ぶ日本の大都市大阪への訪問がこれほど遅くなったのは幾つか理由がある。最も大きな理由はうどん文化が根付いているせいか、ラーメンへの関心が薄い地域のように感じていた事だ。最近になってようやく有名店がグループ化し激戦を繰り広げるようになったようだが、それでは歴史が浅すぎる。地域に根付いた特徴ある老舗を狙う我からすれば、あまり興味を引かれる事がなかった。また大都市で利便性が良いので「いつでも行ける」という気持ちと、「地下鉄などで移動するのは旅情が無さすぎる」という気持ちがあったので、ついつい大阪は後回しにしてしまった。しかし岡山遠征を終え腰を据えて大阪の調査をし、行くべき店とコースがほぼ確定してくると楽しみになってきた。
朝5時過ぎに家を出る。生憎弱い雨が降っている状況なので傘をさして出発。6時18分新横浜発ののぞみに乗車、新大阪には8時25分に到着。何故大阪に早朝に到着する必要があったかと言えば、大阪を代表する地ラーメン「高井田系ラーメン」を狙った為だ。「高井田系ラーメン」とは大阪市と東大阪市の境にある高井田という地域に小ぢんまりと広まる地ラーメンを指す。鶏ガラと昆布から摂った濃い醤油味のスープに、うどんと見間違えるほどの極太ストレート麺が入る。そして早朝から営業開始する店が多いのも特徴のひとつになっている。その為の早出出発となった。新大阪から大阪に移動し大阪環状線で鶴橋へ、更に近鉄奈良線に乗り換え布施駅に下車。こちらでも小雨が降っているので傘を出す。でも雨雲と逆に移動したのでもうすぐ雨は止むはずだ。駅前にはバスロータリー等があり意外と大きい街。アーケード型商店街に入り傘を畳んでそのまま北進する。まだ朝9時前なのでシャッターが降りている店が多い。そのアーケードの下を進むこと約5分程度、アーケードを抜けたところにある道路の反対側に最初の目的の店『住吉』があった。1956年創業。駄菓子屋からの転業との事。高井田系元祖のひとつと言われる。早速入店する。狭い厨房にはおばちゃん2人のみ。時々裏口から近所の店のおばちゃんやおっちゃんが顔を出しちょっと会話を交わしていく。客が出て行こうとすると「おおきに!」「こけんといてや!」と声をかける。大阪の雰囲気満点だ。厨房周りにL字型カウンター8席。先客3人後客3人。口頭で注文。
基本筆頭メニューを注文。極太麺のせいか注文から時間がかかった。正に関東風うどんといった顔をした一杯。シコシコと凄いコシのある丸い太麺。具は青ネギのきざみ、メンマ数本、薄く小さなチャーシュー4枚ほど。スープは出汁の味より醤油自体の味が強くでたもの。醤油原液じゃないかと思うくらい濃い。そしてブリブリの極太丸麺。いかにも労働者に好まれる味と食感だ。美味しかったし思った以上に個性があり大満足。
間髪入れず『住吉』から同じ通りを30秒ほど歩いたところにある『光洋軒』に入店。創業1953年と『住吉』より古く、高井田ラーメンの元祖と言われる。厨房には店主一人のみ。コの字型カウンター10席。何故か座席の下にコンクリートブロックが置いてある。TVがBGV。店主はラーメン作りながら時々テレビを見に来る。先客1人後客ゼロ。口頭で注文。
こちらも基本メニューの注文。こちらは『住吉』よりやや細めの麺になっている。具は青ネギのきざみとメンマ数本、肉くずのようなチャーシュー4枚。昆布出汁が効いたあっさりスープの大阪うどんと対極のような一杯。面白いなぁ。高井田系を堪能出来て満足。
大阪市と東大阪市の境をまっすぐ北へ歩く事約10分。次の店も醤油にこだわる店『金久右衛門(きんぐえもん)』の本店だ。本店というのは関西圏に11店の支店を展開している、関西のラーメン界ではひとつの勢力になっているそうだ。到着したのは開店予定時刻の約50分前。いくらなんでも早すぎだと最寄りの地下鉄の駅まで行って、本日活用する事になるであろう地下鉄一日乗車券「エンジョイエコカード」を購入した。それから戻ってきたがまだ20分以上時間があるので、高架下の高井田の交差点脇のマンション入り口でホットココアを買って飲んで時間を潰した。開店5分前になったで店に行ってみると先客が1人。暖簾が出され中に案内される。支店をたくさんもつ本店なのに看板もなく小ぢんまりしている。中も殺風景だが厨房には男の店員4人と女店員1人。L字型カウンター9席。後客1人。口頭で注文。醤油らーめん専門 金久右衛門 本店
『大阪ブラック』 700円
この店の看板メニューを注文。麺は平打ち太麺。薬味ネギ、メンマ数本、巻きバラチャーシュー。先ほどまでの野趣溢れる無骨な味だったので、非常に上品な味わいに感じた。でも逆に麺が平打ちなのが物足りなく感じてしまった。
地下鉄深江橋駅に行って地下鉄に乗車、西長堀という駅を目指した。慣れない大阪地下鉄の乗り換えに手間取った。出口も目的地から遠い場所に出てしまった。それもまた旅の思い出になる。駅から5分くらいで次の目的店、大阪筆頭という呼び声も高い『カドヤ食堂』総本店に到着。鶴見区に支店があるらしい。1957年大衆食堂として開店したが醤油ラーメンが評判になり2001年中華そば専門店になったという。早速入店すると店内入り口に3人が空席待ち状態。しかし1分程度で全員席に案内された。奥に製麺室がある。厨房には白い割烹着を着た男の店員3人と女の店員2人。厨房前に一列6席のカウンター席と4人がけテーブル席2卓。先客9人後客は続々。口頭で注文。
『中華そば』 700円
筆頭基本メニューを注文。小さな丼に入っている。麺はぬるっとした食感のある中細ストレート麺。具は細かく刻まれた薬味ネギ、穂先メンマ、脂身の多いチャーシュー2枚、海苔1枚。スープは魚介醤油。丼の大きさ、形から何となく今は無き『ちゃぶ屋』に似ているなぁと思ったら、あとから調べると店主は自家製麺を『ちゃぶ屋』店主から手ほどきを受けたとの事。確かに味はいいが何だか完全に東京にもよくある今風のラーメン。若干昆布などの旨みが舌に残るくらい。関西は独自の味覚が発達していると思っていたのに、関東とあまり変わらなくなってしまったのかと思ってちょっと寂しい感じだ。
これで計4杯のラーメンを食べ、さすがにお腹もいっぱい。一度観光と言う名の休憩を入れる事にした。過去自分は2,3回観光で大阪を訪れた事がある。その時一番思い出で残っているのが通天閣のお膝元、、新世界だ。地下鉄に戻り天王洲に向かう。地上に出て公園を抜けて通天閣を目指す。あれ?何だか綺麗に整備されちゃってるぞ?降りた駅を間違えたかな?ともかく通天閣のお膝元に到着。絵に描いたような大阪らしい風景。でも完全観光地だな。土産物を買って新世界を後にする。恵美須町から地下鉄に乗りひと駅目、日本橋で下車。大阪の中心地にあたる。ここに来たのは大阪を代表するラーメンチェーンの本店を訪れる為だ。まずは大阪の街角で必ず目を引くド派手な龍のオブジェと赤い外装の店舗、大阪を代表するラーメン店『金龍ラーメン』、その本店だ。初めて大阪に訪れた時も確か食べた記憶がある。正直美味しいとは思わなかったせいか味はすっかり忘れてしまった。本店と書かれたビルには巨大な龍のオブジェが顔を出している。早速店外に設置してある券売機で食券を買う。日本語、英語、ハングル、中国語のボタンが独立しているのが面白い。広い店内に全てが座敷席という特異な店内。客入りは7割くらいか。いきなり座っていいのかどうかちょっと迷う。店員が店内にいないのだ。すると厨房から大陸系と思われる店員が「食券はこちらに下さい!」と言われたので渡すと、番号が書かれたプラ板食券をくれた。何だセルフ方式だったのか。番号を呼ばれたので引換にラーメンを受け取る。席を確保した後、受け渡し口にある取り放題のキムチやニラを取りに行った。これがあっての『金龍ラーメン』なのだそうだ。
麺は柔らかく茹でられた細麺ストレート。具は薬味ネギ、かためのチャーシュー2枚。スープは薄い豚骨スープだが博多とかとはまた違う。かなり薄い豚骨濃度。それに化学調味料のせいかスパイシーな後味がある。博多ラーメン版ラーメンショップという感じだ。麺がやわやわなのも残念な感じ。正直600円は高い感じ。480円くらいが妥当かと感じた。でも確かに取り放題のニラやキムチには合うだろう。
しばらく歩いたところに『金龍ラーメン』道頓堀店がある。その隣に『ラーメン四天王』がある。その間に細い路地を奥に進んだところに次の目的店『どうとんぼり神座(かむくら)』の道頓堀本店を発見した。すぐ先に『どうとんぼり神座』千日前店があるから紛らわしい。『どうとんぼり神座』は新宿歌舞伎町や渋谷センター街の中心地にもド派手な店を構えていて、約6年前に渋谷店に訪問している。初訪問の時から薄口醤油スープと白菜がたくさん入った感じがいかにも大阪らしく感じて「これが大阪のラーメンなのか」と思ったものだ。後後そのオリジナルスタイルは奈良にあり「天理ラーメン」を言われるものだと知ったが、それでも長いこと我に大阪のラーメンのイメージを印象づけたという意味で、今回の遠征でぜひとも本店訪問をしてみたかった。発祥の店は当初4坪9席の店舗からはじまり、その後向かい側のスペースに拡張させて3ブロックとなり現在30席になっている。背中合わせに一列のカウンター席が配置されている。客入りは8割くらい。厨房のある部屋から女店員が注文を取りに来る。口頭で注文。
『おいしいラーメン』 600円
筆頭基本メニューを注文。渋谷店より50円安くなっている。麺は黄色い多加水中細ストレート。具はたっぷりの白菜とバラ肉チャーシュー2枚。若干甘味を感じる薄口醤油スープはコンソメスープのようでもある。過去食べた印象では味が薄く物足りないはずだったが、今回スープを一口啜った瞬間に「美味しい!」と思ってしまった。年を経て味覚が変わってきたのか?それとも店が味を向上させたのか?本店だからなのか?レンゲが止まらない感じでスープを飲んだ。白菜のシャキシャキ食感も良い。店員にすすめられたので最後の方に卓上の辛味ニラを投入したが、それは必要ないくらい素の状態で満足出来た。
心斎橋筋商店街に入りぷらぷらと散歩。途中何故かユニクロに入ってズボンを買ってしまった。旅先でズボンを買ったのは初めてだ。お腹の消化時間をかせぐ事も兼ね梅田を目指しひたすら北上したら商店街が終わってしまった。仕方なく最寄りの本町駅から地下鉄に乗り梅田で下車する。ここの地下街がだだっ広くて地上になかなか出られない。阪急梅田駅のちょっと先に行った路地裏に本日最終目的店、昭和39年創業、大阪の誇る老舗店『揚子江ラーメン』総本店だ。市内に数店舗展開しているようだ。リアル昭和レトロといった感じの店舗。入り口に会計係がいる。店内の壁には鏡が配置され、カウンターはステンレス製。厨房には禁煙カウンター11席、喫煙席カウンター15席。先客10人くらい。口頭で注文。
『ラーメン』 550円
基本メニューを注文。ちぢれ細麺。具はもやしと春菊、チャーシュー3枚。スープは鶏ガラメインのあっさり塩スープ。春菊が『本丸亭』を思い出させる。オリジナルはこちらなのか?でもスープはかなり味が薄く感じ、卓上の揚げネギを投入。香ばしさが増して良かった。会計をお願いするとチラシを1枚くれた。そして店員に「ここの店舗ではあさってで御仕舞になります。」と言われチラシには新店舗の場所の地図が示されていた。何とこの味わいある昭和レトロな店舗がなくなってしまう、そのギリギリのタイミングで訪問出来て良かった。
全7杯の大阪ラーメン、計画通り順調に訪問出来満足。5時前の新幹線に乗車、7時半には横浜に到着出来た。
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